寄与分とは、亡くなった被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により、被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした者に与えられるものです。
しかしこの権利を主張できるのは、相続人に限られています。
そうすると、被相続人の内縁の妻や息子の嫁などは相続人ではありませんから、たとえばいくら親身に被相続人の療養看護をしても、寄与分を主張して財産をもらうことはできません。それではあまりに不公平だったり、酷な結果となる場合もあります。
本事案は、被相続人より先に亡くなった息子の嫁は、息子とともに長期間営農して被相続人の財産を維持した。そこで、息子の嫁は寄与分を主張できるかが問題となりました。
これに対して裁判所は、寄与分は相続人が遺産分割の手続において清算するものであるから、相続人でない第三者が、遺産分割手続の中で寄与分の主張をすることは許されないとして、民法の規定どおり嫁の主張は退けました。
しかし同時に、相続財産の維持または増加についても公平の原理を基本とする不当利得の原則の適用があってしかるべきであるから、相続財産の維持または増加に寄与した程度が、配偶者について通常の協力扶助の程度を超え、直系卑属については通常の相互扶助の程度を超えるものであり、かつ、その評価額が当該事業の費用として相応である限り、遺産の分割に際し、法定相続分とは別に、かかる寄与分なる観念を認めても、法定相続分を定める民法の精神に反しないと考えると判示しました。
すなわち本事案で嫁は、息子とともに長期間営農した。それは、夫婦間の協力扶助という夫への協力を通じて、相続財産の維持・増加に寄与したと言える(夫婦協力扶助は民法上認められます)。
嫁は相続にいう寄与分の主張はできないが、その代わり不当利得という別の制度を使って、息子を介して対価関係を清算することを認められると考えます。
もっとも本事案では息子と嫁には2人の子があり、嫁はその子らの相続に有利にしてほしいと裁判で主張したため、被相続人の孫らの相続について寄与分が考慮されたものと思われます(代襲相続人につき東高決H1.12.28)。
結論からすると、内縁の妻や息子の嫁は相続人ではありませんから、寄与分を主張できません。
しかし、いわば履行補助者のようなかたちで、夫の財産の維持や増加に通常以上の特別の寄与をしたときには、夫を介して不当利得の返還請求が認められる可能性があります。
本事案のように、寄与分を不当利得に置きかえて権利主張できる場合もありますが、多くのケースではその根拠を明らかにすることは困難です。
後々紛争にならないよう、内縁関係や息子の嫁などに遺贈したい意志は、遺言書で示されるようお勧めします。